事業を運営する上で、予期せぬ事態による資金繰りの悪化は避けられないリスクの一つです。突発的な費用の発生、売上の減少、取引先の倒産など、様々な要因によって、企業は一時的な資金不足に陥ることがあります。このような状況下で、迅速かつ適切な資金調達を行うことは、企業の存続を左右する重要な決断となります。
本記事では、緊急時に事業資金を調達するための10の方法を徹底的に比較検討し、それぞれのメリット・デメリット、調達スピード、注意点などを詳しく解説します。

1. 親族・知人からの借入
最も迅速な資金調達方法の一つが、親族や知人からの借入です。信頼関係に基づいているため、審査や担保が不要で、最短即日の資金調達も可能です。
メリット:
- 低金利または無利息で借りられる可能性: 金融機関のような利息が発生しない場合や、市場金利よりも低い金利で借りられる可能性があります。特に親しい間柄であれば、無利子での融資を受けられることもあり、返済負担を軽減できます。
- 柔軟な返済条件に対応してもらえる可能性: 返済期間や返済方法について、金融機関のような厳格なルールがなく、自身の状況に合わせて柔軟に対応してもらえる場合があります。例えば、一時的に返済が遅れても理解を得やすい、分割払いの回数を調整してもらえるなどが考えられます。
- 担保や保証人が不要な場合が多い: 親族や知人からの個人的な借入の場合、不動産などの担保や第三者の保証人を求められることは一般的にありません。手続きも煩雑にならず、迅速に資金を調達できる可能性があります。
デメリット:
- 人間関係に悪影響を及ぼすリスク: 返済が滞った場合や、返済条件を巡って意見の相違が生じた場合、親族や知人との信頼関係が損なわれる可能性があります。お金の貸し借りが原因で、長年の関係が壊れてしまうリスクも考慮する必要があります。
- 借用書の作成など、慎重な対応が必要: 親しい間柄であっても、後々のトラブルを避けるために、借用書の作成や返済計画の明確化など、書面による記録を残しておくことが重要です。曖昧なままにしてしまうと、認識のずれから関係が悪化する可能性があります。
- 金額に限界がある場合や、相手の状況に配慮が必要: 親族や知人自身も資金に余裕があるとは限りません。高額な融資を依頼することは難しい場合があり、相手の経済状況や生活状況に十分配慮する必要があります。また、相手に無理強いするようなことは避けるべきです。
2. 手形割引
手形割引は、受取手形を銀行や専門業者に買い取ってもらい、期日前に現金化する方法です。ただし紙の手形は2026年度末までに紙の手形は廃止される見込みです。
メリット:
- 迅速性: 期日前の手形を現金化できるため、比較的早く資金化できる
- 信用力活用:取引先の手形を利用して資金調達できる
- 担保・保証人不要: 手形そのものが担保となるため、担保や保証人が不要
デメリット:
- 割引料の発生: 手形の額面金額から割引料が差し引かれる
- 不渡りのリスク: 手形振出人が不渡りを起こした場合、支払いを求められる
- 信用力の低下: 手形割引の利用は、企業の信用力を低下させる可能性がある
3. ビジネスキャッシング
クレジットカード会社やノンバンクなどが提供する、事業資金向けのキャッシングサービスです。クレジットカードに付帯している場合や、事業用のカードとして発行されることがあります。
メリット:
- 比較的審査が早く、手軽に利用可能: ビジネスローンに比べて審査が簡便で、オンラインやATMなどで借り入れが可能です。緊急で少額の資金をすぐに調達したい場合に便利です。
- 無担保・無保証人の場合が多い: クレジットカードに付帯するキャッシング枠や、事業用カードのキャッシング機能を利用する場合、担保や保証人が不要なケースが多いです。
- 利用限度額内であれば繰り返し利用可能: 設定された利用限度額内であれば、必要な時に何度でも借り入れと返済を繰り返すことができます。
デメリット:
- 金利が高めに設定されていることが多い: ビジネスローンと比較して、一般的に金利が高く設定されています。短期間の利用であれば負担は小さいですが、長期にわたる利用は利息負担が大きくなる可能性があります。
- 利用限度額が低い場合がある: ビジネスローンと比較して、融資を受けられる金額の上限が低く設定されていることが多いです。まとまった資金が必要な場合には、不足する可能性があります。
- 返済期間が短い場合がある: 返済方法によっては、一括返済や比較的短い期間での返済が求められる場合があります。月々の返済負担が大きくなる可能性があります。
4. ファクタリング
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社に売却し、期日前に現金化する方法です。
メリット:
- 早期現金化: 売掛金を早期に現金化できるため、迅速な資金調達ができる。
- 担保・保証人不要: 売掛債権そのものが担保となるため、担保や保証人が不要。
- 信用情報に影響なし: ファクタリングの利用は、借金とは違うため信用情報に影響を与えない。
デメリット:
- 手数料が高い: 都度利用の手数料が高い。(2社間は一般的に8%~18%、3社間は一般的に2%~9%)
- 売掛先の信用状況: 売掛先の信用状況によっては利用できない場合がある。2社間は承諾を得ずに利用できるが、トラブルになる可能性もある。
- 取引先の理解: 取引先にファクタリングの利用を知られる可能性がある。
5. 保険解約、積立保険の契約者貸付
解約返戻金のある生命保険や損害保険を解約し、解約返戻金を資金調達に充てる方法や解約返戻金の範囲内で契約者貸付でお金を借ります。
メリット:
- 負債増加なし: 借入ではないため、負債が増加しない。
- 担保・保証人不要: 保険契約そのものが担保となるため、担保や保証人が不要。
- 比較的低金利:低金利で借入ができる。
デメリット:
- 解約返戻金が少ない場合がある: 保険の種類や契約期間によっては、解約返戻金が少ない場合がある。
- 将来の保障がなくなる: 保険を解約すると、将来の保障がなくなる。
- 解約手数料が発生する場合がある: 保険会社によっては、解約手数料が発生する場合がある。
6. 日本政策金融公庫の災害復旧貸付
日本政策金融公庫の融資は、緊急時に頼りになる選択肢の一つですが、「1か月内で融資がおりるか」については、審査状況によって異なります。一般的に日本政策金融公庫の融資審査には2週間~1カ月程度かかるとされていますが、必要書類の準備状況や公庫の混雑状況によって変わります。
メリット:
- 低金利: 民間の金融機関に比べて金利が低い場合が多い。
- 政府系金融機関の安心感: 比較的安心して利用できる。
- 緊急時対応: 短期運転資金や災害復旧貸付など、緊急時に対応した融資制度がある場合がある。
デメリット:
- 審査に時間がかかる可能性がある: 緊急融資や特別融資でも必要書類の準備や審査に時間がかかり必ずしも1か月以内に融資が実行されるとは限らない。特に書類の不備があった場合や窓口の混雑状況によっては遅れる。
- 必要書類の準備に手間がかかる: 緊急時であっても、事業計画の提出が求められ、提出する書類に不備や誤りがあると、審査が滞る原因となる。
- 融資額や条件が希望通りにならない可能性がある: 緊急時であっても、審査の結果、希望する融資額や返済期間、据置期間などの条件が希望通りになるとは限らない。担保や保証が求められることもある。
7. セーフティネット保証・危機関連保証を利用した融資
セーフティネット保証および危機関連保証は、中小企業信用保険法に基づき、経済環境の悪化や災害などにより経営の安定に支障が生じている中小企業者に対して、信用保証協会が通常の保証限度額とは別枠で保証を行う制度です。これを利用することで、金融機関からの融資を受けやすくなります。
メリット:
- 融資の受けやすさ: 信用保証協会の保証が付くことで、信用力が低い中小企業でも金融機関からの融資を受けやすくなります。特に、通常の保証枠を使い切っている場合でも、別枠で保証を受けられる可能性がある。
- 保証限度額の拡大: 一般保証とは別枠で、最大2億8,000万円(無担保保証の場合は8,000万円)までの保証が受けられます。危機関連保証の場合は、さらに別枠となる場合があります。これにより、必要な資金を確保できる可能性が高まります。
- 金利・保証料の優遇措置: 状況によっては、金利の一部や信用保証料が減免されるなどの優遇措置が設けられることがあります。これにより、資金調達コストを抑えることができます。
デメリット:
- 認定手続きが必要: セーフティネット保証・危機関連保証を利用するためには、事業所の所在地を管轄する市区町村長の認定を受ける必要があります。この認定には、申請書類の準備や審査に時間がかかる場合があります。
- 融資審査がある: 市区町村長の認定を受けた後も、実際に融資を行う金融機関と信用保証協会の審査を受ける必要があります。この審査に通らなければ、融資を受けることはできません。
- 信用保証料の支払い: 保証を受けるためには、信用保証協会に対して信用保証料を支払う必要があります。保証期間や融資金額に応じて保証料が発生します。
8. プロパー融資
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を付けずに、金融機関(主に銀行)が直接企業の信用力に基づいて行う融資のことです。緊急時に1ヶ月以内の融資を目指す場合の特徴を踏まえたメリット・デメリットを以下に示します。
メリット:
- 信用力次第で迅速な審査・融資: 既に金融機関と長年の取引があり、信用力が高いと評価されている場合、審査が迅速に進み、1ヶ月以内の融資実行の可能性があります。特に緊急時の融資枠などが設けられている場合、通常のプロパー融資よりもスピーディーな対応が期待できます。
- 保証料が不要: 信用保証協会の保証を利用しないため、保証料の支払いが発生しません。緊急時に少しでもコストを抑えたい場合にメリットとなります。
- 融資限度額の柔軟性: 信用保証協会の保証枠に左右されないため、企業の信用力に応じて比較的大きな融資額が設定される可能性があります。緊急でまとまった資金が必要な場合に、希望額に近い融資を受けられる可能性があります。
デメリット:
- 審査のハードルが高い: 信用保証協会の保証がない分、金融機関は企業の信用力を厳しく審査します。業績が悪化している場合や、担保・保証の状況によっては、緊急時であっても融資を受けるのが難しい場合があります。
- 担保・保証が求められる可能性が高い: 特に緊急融資で企業の信用力が十分でないと判断された場合、不動産などの担保や経営者の個人保証が求められる可能性が高くなります。これらの準備に時間がかかったり、提供できる担保がない場合は融資が難しくなります。
- 返済期間が短くなる傾向: 緊急時の短期的な資金需要に対応する場合、返済期間が比較的短く設定されることがあります。そのため、月々の返済負担が大きくなる可能性があり、資金繰りを圧迫する恐れがあります。
9. 不動産担保ローン
緊急時に事業資金を調達する手段として、所有している不動産を担保に入れて資金を調達する方法です。銀行の融資がおりるまでつなぎ資金として利用されることもあります。
メリット:
- 比較的まとまった資金調達が可能: 不動産は一般的に価値が高いため、他の担保に比べて高額な融資を受けられる可能性があります。緊急時にまとまった資金が必要な場合に有効な手段となります。
- 迅速な融資が可能: アライアンス株式会社では必要書類が揃っている場合、最短2日で融資が可能です。
- 返済期間を長く設定できる可能性: 担保があることで、無担保ローンよりも返済期間を長く設定できる場合があります。月々の返済額を抑え、資金繰りの負担を軽減することができます。
デメリット:
- 担保となる不動産を失うリスク: 返済が滞った場合、担保として提供した不動産を金融機関に差し押さえられ、最終的に失ってしまう可能性があります。緊急時の資金調達とはいえ、返済計画を慎重に立てる必要があります。
- 審査に時間がかかる場合がある: 不動産の評価や権利関係の調査などに時間がかかるため、無担保ローンと比較して融資実行までに時間がかかる場合があります。緊急で資金が必要な場合には、迅速な対応が難しいことがあります。
- 諸費用が発生する: 不動産の評価費用、抵当権設定費用、印紙税、司法書士への報酬など、融資を受ける際に様々な諸費用が発生します。これらの費用が、緊急時の資金調達の負担となる可能性があります。
10. 資産の売却(換金性の高いもの)
緊急時に保有している資産を売却して資金を調達する方法です。
メリット:
- 返済義務がない: 借入とは異なり、売却によって得た資金には返済の義務が一切ありません。将来的な資金繰りの負担を増やすことなく、一時的な資金需要に対応できます。
- 利息負担がない: 借入金のように利息が発生しないため、資金調達コストを抑えることができます。特に緊急時には、少しでもコストを削減したいというニーズに合致します。
- 財務体質の改善: 不要な資産を売却することで、バランスシートがスリムになり、自己資本比率が向上するなど、財務体質の改善につながる可能性があります
デメリット:
- 売却損が発生する可能性: 緊急時には、希望価格で売却できるとは限りません。市場価格よりも低い価格で売却せざるを得ない場合や、購入価格を下回る価格での売却となり、損失が発生する可能性があります。
- 事業に必要な資産の喪失: 売却した資産が、本来事業活動に必要なものであった場合、将来的な収益機会の損失や業務効率の低下につながる可能性があります。例えば、個人事業主が業務用の車両を売却した場合、移動や運搬に支障が出るなどが考えられます。
- 売却までに時間がかかる場合がある: 特に不動産や専門的な機械など、買い手を見つけるのに時間がかかる資産もあります。緊急時にすぐに現金化できるとは限りません。また、売却手続きにも時間を要する場合があります。
まとめ
緊急時の資金調達で失敗しないために
緊急時の資金調達は、企業の存続を左右する重要な決断です。
本記事で紹介した10の方法を参考に、自社の状況やニーズに合った最適な資金調達方法を選択してください。また、資金調達だけでなく、日頃から資金繰りの改善や経営計画の見直しを行うことも重要です。
アライアンス株式会社では不動産担保ローンを中心に最短2日の融資と1年以内の短期間の借入、もちろん長期での融資も可能です。政府系金融や銀行などの審査機関が長引く場合などつなぎ資金をして、一定期間しのぎながら借換えを行うのも一つの方法です。
執筆者:石川 慶(行政書士・宅地建物取引士・貸金業務取扱主任者)