企業の経営において「債務超過」は避けるべき深刻な財務状況の一つです。ただ、経営をしていると債務超過になる場合も多々あります。
債務超過に陥ると、金融機関からの融資が難しくなるだけでなく、取引先や投資家の信頼を損ない、最悪の場合は倒産に至る可能性もあります。本記事では、債務超過の基本概念、その原因と対策、そして解消方法について詳しく解説します。

1. 債務超過の基本概念
債務超過とは、企業の負債総額が資産総額を上回る状態のことを指します。つまり、企業の純資産がマイナスになっている状態です。
1.1 債務超過の判断基準
債務超過は、以下のような計算式で判断されます。
純資産 = 総資産 – 総負債
この計算で純資産がマイナスになっている場合、企業は債務超過に陥っていることになります。
1.2 債務超過の種類
債務超過には、主に以下の2種類があります。
- 会計上の債務超過:財務諸表上(BS)で資産より負債が多い状態。
- 実質的な債務超過:会計上では債務超過ではないが、事業価値が低下しており返済能力が不足している状態。
2. 債務超過の原因
2.1 事業の業績悪化
市場環境の悪化や商品・サービスの陳腐化による売上の減少や利益の低下が続いていて、各種費用がそのままの場合、企業は負債を増やして資金を調達せざるを得なくなり、債務超過に陥る可能性があります。
A社は衣料品を販売する小売業を営んでいましたが、競争の激化と消費者の購買行動の変化により売上が減少。運転資金確保のため借入を増やして、新商品の開発や販路開拓にいそしんだが、結果は芳しくなく債務超過に陥りました。
2.2 過剰な借入れ
起死回生にと事業継続のために過度な借入れを行い、見込んだ利益が伴わない場合、利息負担が増大し、財務状況が悪化します。
B社は製造業の企業で、最新設備の導入を進めるために多額の借入れを実施。しかし、想定した生産効率の向上が実現できず、売上は伸び悩み、借入れの返済負担が重くなり債務超過に。
2.3 投資の失敗
新規事業や設備投資が期待通りの成果を生まなかった場合、多額の損失が発生し、資産価値の低下を招きます。
C社は成長戦略の一環として海外市場へ進出。しかし、現地の市場調査が不十分だったため需要が伸びず、投資した資金が回収できずに債務超過になりました。
2.4 不良債権の増加
回収不能な売掛金が増加すると、貸倒れによる損失が発生し、資産価値が減少します。
D社は主要取引先の倒産により売掛金の回収が不能となり、多額の損失を計上。その結果、財務バランスが崩れ債務超過に陥りました。
3. 債務超過の影響
3.1 金融機関からの融資が困難になる
金融機関へ融資を希望するとき、もしくは金融機関からの融資後毎年決算書提出を求められると思います。決算書が債務超過の企業は信用力が低下し、新規融資や追加融資を受けるのが難しくなります。
E社は運転資金のために銀行融資を申請したが、債務超過のため融資が承認されず、資金繰りが悪化。
3.2 取引先の信用低下
債務超過企業との取引を敬遠する取引先が増え、仕入れや販売の機会が縮小する可能性があります。
3.3 会社の存続危機
財務状態が悪化すると、最悪の場合、倒産や事業再生を検討する必要が生じます。
4. 債務超過の解消方法
4.1 収益性の改善
資金を調達できるなら、調達資金で新規事業への進出や既存の商品・サービスにテコ入れし、売上を増加させ、利益率の高い構造に変化させることで、財務状況の改善を図ります。企業の信用情報が悪化していて銀行からの調達が難しい場合、金利は高いですがファイナンス業による不動産担保ローンなどを活用して一時的資金を調達してチャレンジする方法も考えられます。
4.2 コスト削減
固定費や変動費の見直しを行い、無駄な支出を削減します。
F社は債務超過の解消のため、業務効率化と人件費削減を進め、経費圧縮に成功。ただし、これ以上コストの削減しようがないという企業もあります。その場合は複数の事業の場合など事業ごと売却したり、場合によっては会社を売却して再起を図る方法もあります。
4.3 資産の売却
不要な不動産や設備を売却し、資産価値を高めることで負債を圧縮します。
4.4 増資の実施
中小零細の場合、知人などから株主になってもらい割当増資を行い、資本を増やすことで債務超過を解消します。
有望な市場やニーズの高い事業だと、エクイティ投資家が株式に出資してくれる場合もあります。
G社は債務超過の解消のため、外部投資家を募り増資を実施。資本強化により信用を回復し、経営再建に成功。ただ、中小零細の事業で増資に応じてくれる投資家を探すのは至難の業ですし、応じてくれない場合が多いです。
そうすると、不動産担保を利用して比較的短期の期間で事業再生をかけて資金調達する方法が現実的な場合もあります。
債務超過になると金融機関は辛い判断をしてきます。ただし債務超過になっても資金が回っている限り会社は倒産しません。

事業継続するために資金調達の手段をいくつも持っているということは、いざ何かが起きた時に強いです。
長年事業経営を続けていると一度や二度債務超過に陥ることもありますし、赤字決算に陥ることも多々あります。そういう時にどう対処するか、どう切り抜けていくかが重要です。企業経営において一時的に深刻な問題ですが、適切な対策を講じることで改善の可能性もありますので、一度弊社にご相談ください。
執筆者:石川 慶(行政書士・宅地建物取引士・貸金業務取扱主任者)